Anatomy for the safe injection(安全な注入のための解剖学)

Anatomy for the safe injection

日時:2024年7月28日(日)
講師:征矢野進一 医学博士(Shinichi Soyano M.D.)
場所:大連、 中国(Dalian Municipal Central Hospital)

美容医療における注入療法を安全に実施するために必要な解剖学的知識の解説と、注入治療で使用される材料の特性や適切な注入層、痛みの管理法、そして重篤な合併症である失明の予防法と対処法を具体的に説明しました。

使用される注入材料の種類と用途

  • コラーゲン(ウシ由来、ブタ由来、ヒト由来):シワの治療において主に浅い真皮層に注入
  • ヒアルロン酸(レスチレン、JBPナノリンクフィラー、ジュビダーム、フィロルガ):深いシワには真皮深層、ボリュームアップには皮下脂肪層
  • Agarose(多糖類、アルジェネス):ボリュームアップ目的に脂肪層へ注入
  • 自己脂肪:ボリュームアップ目的に脂肪層へ注入
  • ハイドロキシアパタイト(ラディエッセ):脂肪層または骨膜近傍層へのボリュームアップ目的の注入
  • ボツリヌストキシン(ボトックス、ゼオミン、BTXA、Dysport):筋肉の動きを抑える(筋肉層)
  • ポリ乳酸(CureWhite):下層に注入、真皮層への注入は避けるべき
使用される注入材料の種類

注入のための組織層

注入の対象となる軟部組織の層構造を正確に把握することが必須で、特に次の層の特性を理解する必要があります。

  • 浅い真皮層
  • 深い真皮層
  • 脂肪層
  • 筋肉層
  • 骨膜近傍層

材料ごとに適切な注入層が異なり、それを誤ると効果が得られないだけでなく、合併症のリスクも増加します。

痛みの管理(神経ブロック)

注入時の痛みを軽減するために神経ブロックが推奨されています。具体的には以下の神経に対してリドカインを用いた局所麻酔を実施します。

額部の神経ブロック

A、B:眉上神経の神経ブロック:額および眉間への麻酔、リドカイン0.5%を0.1〜0.5ml使用

神経ブロック

A:眼窩下神経(下眼瞼、上唇、鼻唇溝、頬内側の麻酔)
B:オトガイ神経(下唇、口角の麻酔):リドカイン0.5%を0.1〜0.5ml使用、目尻と頬外側部には局所麻酔クリームを使用

中顔面の神経ブロック

重篤な合併症(失明)の予防と対処法

注入療法で最も深刻な合併症は失明です。その原因は、顔面動脈と内頚動脈の異所的吻合部位を通じて、注入材料が網膜中心動脈に流入することにあります。

失明の回避法

  • 一度に大量の注入を避ける
  • カニューレを用いることで動脈への注入を避ける
  • ゆっくりと注入し、注入部位の観察を徹底する

失明の治療法

注入された物質がヒアルロン酸の場合、24時間以内にヒアルロニダーゼを眼球後方に注入することが有効

結論

美容医療での注入治療には、顔面各部位における軟部組織の解剖学的構造と特徴に関する深い知識が必須です。皮膚や筋肉の厚さ、位置関係を正確に理解することが安全かつ効果的な注入療法の基本となります。

1952年(昭和27年)12月29日、長野県木曽福島町に生まれる。1967年(昭和42年)4月に長野県上田高等学校へ入学、高校在学中の1970年(昭和45年)8月から1971年(昭和46年)7月までアメリカ合衆国マサチューセッツ州ミルトン・アカデミー高校へ留学、同年7月に卒業した。1972年(昭和47年)3月に上田高等学校を卒業後、同年4月に東京大学理科三類へ進学。東京大学では医学を専攻し、1979年(昭和54年)3月に東京大学医学部医学科を卒業。

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