形成外科領域における医療材料 ―過去から現在―:フィラー

形成外科領域における医療材料 ―過去から現在―:フィラー

はじめに

フィラー注入の歴史は100年以上前に遡ります 。かつては様々な材料が試されてきましたが、近年では安全性の高い材料が普及し、ダウンタイムの短い非手術的治療として美容外科の主流となっています 。多種多様な製剤が登場している現代において、適切な材料を選択するための知識を持つことが重要です 。

注入材料の種類

注入材料は、古くから用いられてきたパラフィンや液体シリコンなどの「非吸収性材料」から、近年の主流であるヒアルロン酸やコラーゲンなどの「吸収性材料」まで多岐にわたります 。これらは大きく以下の3つに分類されます 。

  1. 吸収性材料:体内で分解・吸収されるもの
  2. 非吸収性材料:体内に永続的に残るもの
  3. 吸収性材料と非吸収性材料の混合物

吸収性材料

現代の注入治療において中心的な役割を果たすカテゴリーです 。

コラーゲン製剤

ウシ、ヒト、ブタ由来の3種類があります 。ウシ由来は長い歴史を持ち手法が確立されていますが、事前の皮内テストが必要です 。ヒト由来はアレルギー反応が少なくテスト不要なものが多いのが特徴です 。

ヒアルロン酸製剤

現在最も広く用いられている材料です 。アレルギーのリスクが低く、万が一過剰に注入した場合でも分解酵素で元に戻せるという利点があります 。

ポリ乳酸(PLLA)製剤

自身のコラーゲン産生を促す作用があり、最終的には水と二酸化炭素に分解されます 。

ポリカプロラクトン(PCL)製剤

軽い炎症反応を利用してコラーゲンを増やし、6ヵ月〜4年程度の効果持続が期待できます 。

ハイドロキシアパタイト製剤

骨の無機成分と同じ主成分を持ち、形が崩れにくいため、特定の部位の隆起に適しています 。

PRP(多血小板血漿)

患者自身の血液から抽出した成長因子を利用する方法です 。

非吸収性材料

かつて用いられていた材料ですが、長期的な安全性に課題があります 。

パラフィン

1902年には鼻への注入例がありますが、石灰化やパラフィノーマ(硬いしこり)などの危険性が報告されています 。

液体シリコン

化学的に安定していますが、注入後の肉芽腫や、数十年後の疼痛・腫脹の原因となるリスクがあります 。

ポリアクリルアミド

1990年代から用いられましたが、重合されなかったモノマーに強い毒性があるほか、変形や炎症などの合併症が報告されています 。

吸収性材料と非吸収性材料の混合物

即効性と持続性を両立させる目的で開発されました 。
ウシ由来コラーゲンとPMMAの混合物(Artefill®)などが知られていますが、副作用が起きた場合の対処は外科的摘出に限られます 。また、ヒアルロン酸とアクリルハイドロゲルの混合物の中には、肉芽腫の多発により使用禁止勧告が出されたものもあります 。

まとめ

注入治療の材料は、歴史とともに次々と新しい製剤が開発されてきました 。それぞれの材料には一長一短があるため、目的の治療に最も適した製剤を選択し、その特性や適用を正しく理解して診療に用いることが不可欠です 。

50歳代、男性

額右半分を Esthelis® Basic(Anteis 社,スイス)で治療する前

治療後10 ヵ月の所見。まだ右側のシワは目立たない

本稿は、征矢野進一による「形成外科領域における医療材料 ―過去から現在― フィラー」形成外科第61巻 第4号の内容を元に構成しています 。

1952年(昭和27年)12月29日、長野県木曽福島町に生まれる。1967年(昭和42年)4月に長野県上田高等学校へ入学、高校在学中の1970年(昭和45年)8月から1971年(昭和46年)7月までアメリカ合衆国マサチューセッツ州ミルトン・アカデミー高校へ留学、同年7月に卒業した。1972年(昭和47年)3月に上田高等学校を卒業後、同年4月に東京大学理科三類へ進学。東京大学では医学を専攻し、1979年(昭和54年)3月に東京大学医学部医学科を卒業。

執筆者