各種耳瘻孔の治療経験

各種耳瘻孔の治療経験

統計的観察

先天性耳瘻孔は、耳の周囲に小さな穴ができる先天異常です。開口部の位置や瘻管の広がりには個人差があり、片側だけに見られる場合と、両側に見られる場合があります。
昭和43年から56年までに東京大学形成外科を受診した73例では、左側が37例、右側が20例、両側が16例でした。両側に耳瘻孔が見られた症例は、全体の22%です。男女別では男性27例、女性46例で、女性が63%を占めていました。ただし、女性は見た目を気にして治療を希望することが多く、受診者数の違いが性別の割合に影響している可能性もあります。
瘻孔の位置は、耳輪上行部の前方に開口するものが62例と最も多く、耳輪脚中央部が10例、対珠部が1例でした。耳の前方に開口する耳前部瘻孔が、全体の85%を占めています。

手術方法

耳輪脚部瘻孔の手術

耳輪脚中央部に開口する耳瘻孔では、瘻管が軟骨を貫通し、軟骨の裏側に嚢胞を形成していることがあります。
手術では耳輪脚に沿って皮膚を切開し、必要に応じて軟骨にも切開を加えます。そのうえで、軟骨の裏側に形成された嚢胞を丁寧に剥離し、瘻管とともに摘出します。
炎症が耳介の後方まで広がると、耳の後ろに膿瘍や別の開口部が形成されることがあります。この場合は、後方の病変まで切開を延長し、瘻管、嚢胞、肉芽組織をまとめて取り除きます。

症例

耳前部の瘻孔から離れた位置に膿瘍ができた症例

2歳の女児で、耳前部の瘻孔とは離れたもみあげ付近に膿瘍が形成されていました。
皮下では細い瘻管でつながっており、軟骨の一部を含めて切除し、皮膚欠損は局所皮弁で閉鎖しました。術後1年3か月で再発は認められていません。

耳介後部に膿瘍を繰り返した症例

6歳の男児で、耳輪脚部の瘻孔から軟骨裏面の嚢胞を介して耳介後部の膿瘍へ瘻管がつながっていました。
瘻管、嚢胞、膿瘍を一塊として摘出し、術後1年間再発は認められていません。

対珠部に瘻孔があった症例

10歳の女児で、対珠部の瘻孔と耳甲介下部の開口部が瘻管でつながっていました。
軟骨を含めて病変を一塊として切除し、術後9か月で再発は認められていません。

考察

先天性耳瘻孔の概念

耳瘻孔は複数の名称で呼ばれ、開口部は耳のさまざまな位置に生じますが、耳輪上行部から耳前部に多く、73例では85%を占めていました。耳輪脚部の瘻孔では炎症が耳介後部へ広がり、他疾患と誤診されることがあるため注意が必要です。
発生頻度は一定せず、原因は胎児期の耳介形成時の融合不全と考えられています。遺伝的要因も関与しますが発現は一定ではなく、左右差にも明確な傾向はありません。両側例は22%で、女性の受診が多い傾向がみられます。

治療法

耳瘻孔の手術では、瘻管の走行や周囲組織との関係を把握し、病変を十分に摘出することが再発予防に重要です。急性膿瘍がある場合はまず切開・排膿を行い、炎症が落ち着いた時期に摘出します。慢性感染では肉芽組織を含めて切除します。色素注入は補助的に用い、染色に頼らず異常組織を確認しながら切除範囲を決定します。
瘻管が軟骨に癒着・貫通している場合は軟骨の一部を含めて切除し、摘出後は死腔を閉鎖して多くは一次縫合が可能です。必要に応じて局所皮弁を用います。

結語

73例の耳瘻孔を検討した結果、左側にやや多く、受診者は女性が多い傾向にありました。発生部位は耳輪上行部前方が最も多く、全体の85%を占めています。
耳瘻孔の手術では、瘻管の走行や軟骨との関係、炎症によって生じた肉芽組織の広がりを正確に把握することが重要です。特徴的な3症例からも、瘻管や肉芽組織を残さないよう慎重に摘出することで、再発を防ぎ、良好な治癒につながることが示されています。

本稿は、征矢野進一「各種耳瘻孔の治療経験」形成外科 第28巻第2号を元に構成しています 。

1952年(昭和27年)12月29日、長野県木曽福島町に生まれる。1967年(昭和42年)4月に長野県上田高等学校へ入学、高校在学中の1970年(昭和45年)8月から1971年(昭和46年)7月までアメリカ合衆国マサチューセッツ州ミルトン・アカデミー高校へ留学、同年7月に卒業した。1972年(昭和47年)3月に上田高等学校を卒業後、同年4月に東京大学理科三類へ進学。東京大学では医学を専攻し、1979年(昭和54年)3月に東京大学医学部医学科を卒業。

執筆者